第44回 道義はいずこに
商業施設新聞 2018年5月15日(火)掲載
永い間企画・開発・リーシングの仕事をしていると正に予測もつかない難事にぶち当たる事が時々ある。
我が社としてデべとテナント双方の思惑・ニーズを引き出し、無い知恵を絞りだしながらも考え、様々な提案を20年以上してきた。
今回の件もめったにない事だが、『こんなこともあるのか?』『これで良いのだろうか?』『良いはずがない?』…果たして皆さんはどう思うのか?そして今後身近な開発の現場で起きないとも限らない、そう想ってペンを走らせたのである。
都心からやや離れたこじんまりしたSC、地元消費者に愛され販売効率は良く『売れてる』SCである。売場面積もさほど広くなくというより小さいという表現の方が正しいのか、必然的にテナント数も多くなく、そこでのテナント入れ替え・リニューアル時の出来事だ。
この企画に興味を持った専門店が早速現われデべに提案した。古くからの専門店だがこの地域ではかなりの実績もあり複数店舗展開している。ところがリニューアルにおける大きな課題、既存店の退店交渉がなかなか進展せず、デべからの区画の提示も二転三転し時間ばかり過ぎていく、そうこうするうちに今度はテナントに他SCからの好条件での勧誘があり困惑状態、それでもデベからの判断が出てこず、この話は暗礁に乗り上げてしまったかに見えたが、当初の区画で粘り強く交渉だけは続けていた。
ここまで来るのにほぼ半年、『既存店の退店交渉がまとまったから、すぐにでもオープンして欲しい!』とのデべからの連絡、『それは無理』とのテナントの返事、そして更に交渉を継続し『時期ずらし6か月後のオープン』を再提案、それからやっと3か月位後に内定通知が出て契約の確認作業に入った。ここで新たな問題、テナントから『同業他店の出店はさせない』の文言を契約書に入れて欲しいとの強い要望、それに対して契約書への明記は絶対できないとのデべからの回答があったので渋々了承せざるを得なく何とか開店した。
これ位の規模=売場面積のSCにおいては専門性の高い業種テナントについては、意図的に競争させる為以外に同業を複数入れる事はしないのが通常だが…なんとこのテナントの正式オープン前から全く同業の催事営業を別区画で始めている。デベへ問い合わせると『いずれ正式出店に替わる?』が前提のようで『契約書に書いてないから問題ないでしょう』との見解である。
デべとテナントが相互信頼の元に共存共栄を図っていくのがSCの本来あるべき姿だと思うのだが、相互に『不信感・横暴!』と『わがまま?』を抱えながら問題の本質的解決に至らず今日も営業している。『道義』という言葉は何処へ行ったのだろうか?悪い後味が残った仕事だった。